記事本数が増えない原因は、書く側ではなく差し戻しにある

記事1本のリードタイムを、工程ごとに測ったことはあるでしょうか。

執筆に3日、レビューに1日、修正に1日、再レビューに半日、公開。合計すると5日半ですが、これは「作業していた時間」ではありません。ライターが修正するまでの待ち時間、編集者が次にその原稿を開くまでの待ち時間が、この中の大半を占めています。

実作業だけを足すと、たぶん半日もありません。残りは全部、順番待ちです。

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往復が1回増えると、暦が2日進む

差し戻しの往復1回で、作業時間1時間に対して暦が5日進む流れを金曜から水曜で示した図

差し戻しのコストは、赤入れにかかる30分ではありません。往復に挟まる待ち時間です。

編集者が金曜の夕方に赤を入れる。ライターが月曜に見る。火曜に直して返す。編集者は火曜は別の記事を見ていて、水曜に開く。この時点で、金曜からの5日が消えています。作業時間の合計は1時間程度なのに。

往復が2回になれば、これがもう一度起きます。1往復が暦の2日を食うという感覚は、そう外れていないはずです。

だから本数を増やしたいとき、効くのは「執筆を速くする」ことより「往復の回数を減らす」ことになります。ライターに締切を前倒ししてもらっても、往復が2回あるなら効果は薄い。

編集者が1人なら、全部が直列になる

もうひとつ、規模の問題があります。

編集者が1人で全記事を見ている体制は珍しくありません。品質基準が一貫するという意味では良いことでもある。ただしこの構造だと、全記事が1人のキューを通過します。

月20本なら回ります。40本にしようとすると、キューが詰まる。60本は無理です。ライターを増やしても、編集者が増えない限り、公開本数の天井は編集者の処理能力で決まります。

しかも、この人が体調を崩すと全部止まる。休暇を取ると、その週の公開が翌週に寄る。属人化のリスクとして語られがちですが、実務的にはスループットの問題として先に出ます。

編集者の1日を、指摘の種類で割ってみる

編集者の指摘を機械に渡せるものと人にしか見えないものに分けて対比した図

ここで一度、赤入れの中身を分類してみてください。

A:正解が一つに決まる指摘

  • 表記のゆれ(お問合せ/お問い合わせ、Wordpress/WordPress)
  • 冗長な言い回し(することができます、という形になります)
  • 全角半角の混在(100%、全角スペース)
  • 文体の混在(です・ます調にだ・である調が混ざる)
  • 一文が長すぎる、読点が多すぎる

B:その原稿を読まないと判断できない指摘

  • 構成の順番、見出しの立て方
  • 根拠が足りない、出典が要る
  • 想定読者とズレている
  • 結論が弱い、そもそもこの切り口でいいのか
  • 事実として合っているか

Aは、誰が見ても同じ答えになります。編集者である必要がない。むしろ、編集者がやると単価の高い作業になります。

Bは、編集者にしかできません。メディアの狙いを知っていて、読者を知っていて、過去記事との重複も分かっている人にしか判断できない。

Aに時間を使っている限り、Bの質は上がらない

問題は、Aが量として多いことです。1本の原稿から出る指摘のうち、件数で言えばAが大半を占めることは珍しくありません。

そして人間の集中力には順番があります。表記のゆれを20個拾ったあとで構成の甘さを見抜くのは、けっこう難しい。細かい照合をしているときの頭と、記事全体を俯瞰しているときの頭は別物だからです。

つまりAは、編集者の時間を奪うだけでなく、Bの精度も下げています

差し戻しの理由がAだけで埋まっている原稿があるなら、それは往復1回分、まるごと不要だった可能性があります。

「機械に渡せる指摘」という線引き

ここから打ち手は一つに絞れます。Aを人から外す。

Aの特徴を見ると、共通点があります。判断材料が文字列の中で完結している。「お問合せ」という並びを見つけたら「お問い合わせ」を提案する、それだけで足ります。前後の文脈も、記事の狙いも、読者像も要らない。

Bは逆で、文字列の外にある情報が要ります。だから機械には渡せません。

この線引きは、思ったよりくっきりしています。そして線の位置は、ツールの性能ではなく指摘の性質で決まります。高性能なツールを使えばBまで渡せるようになる、という話ではない。

何がどこまで変わるか、を正直に見積もる

Aを機械に渡すと、往復はどうなるか。

  • ライターが書いている最中にAが出るなら、そもそも原稿にAが載ってこない
  • 編集者が開いた時点でAが残っていないので、赤入れはBだけになる
  • Bだけの指摘なら件数は減り、往復が1回で収まる確率が上がる

ここで「往復がゼロになる」とは言えません。Bの指摘は残るし、Bこそが本来やるべき差し戻しです。構成のやり直しは1往復では終わらないこともある。

減らせるのは、Aだけで発生していた往復です。それが月に何回あるかは、直近の差し戻し理由を10本ぶん見返せば見当がつきます。全部Aだった原稿が3本あれば、それが削れる分。

では、機械はどこまで渡されたものを処理できるのか

Aを機械に渡すという結論には、まだ穴があります。「機械」が何を指すのかを決めていない。

ツールによってできる範囲は違いますし、AIに投げれば全部片づくわけでもありません。むしろ、渡し方を間違えると新しい手間が増えます。原稿を別サービスにコピペする運用は、ライターの手順を1つ増やすので、たいてい続きません。

どこまでを機械に任せられて、どこからは任せてはいけないのか。その線引きは別の記事で整理しました

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