日本語の校正はどこまで機械に任せられるか(そして任せてはいけない範囲)

「校正はAIに投げれば済む」と言われることが増えました。試してみると、たしかに誤字は拾ってくれます。文章も整えてくれる。ただ、同じ原稿を二度投げると違う指摘が返ってくることに気づいた時点で、編集フローに組み込むのをためらった人も多いはずです。

機械化の議論は、ツールの良し悪しから始めるとまとまりません。先に決めるべきは、指摘の性質による線引きのほうです。

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判断材料が文字列の中にあるか、外にあるか

校正の指摘は、この一点で二つに割れます。

「お問合せ」を「お問い合わせ」にする。この判断に必要な情報は、その6文字だけです。記事のテーマも、読者層も、前後の段落も要らない。文字列の中で完結している

一方「この段落は根拠が弱い」という指摘には、文字列の外にある情報が要ります。何を根拠と認めるメディアなのか、読者はどこまで知っているのか、競合はどう書いているのか。文字だけ見ても判断できません。

前者は機械に渡せます。後者は渡せません。ツールが賢くなれば後者も渡せるようになる、という話ではなく、判断材料がそこに無いという構造の問題です。

「一意に決まる」の内側にも段差がある

日本語校正の判定方式を辞書と正規表現・形態素解析・生成AIの3層で比較した図

前者を機械に渡すとして、では機械はどうやって判断しているのか。技術的には三層あります。

1. 辞書と正規表現による照合

登録した文字列を探して、対応する推奨表記を出す。「することができます」を見つけたら「できます」を提案する。速く、確実で、結果が毎回同じ。弱点は、登録していないものは絶対に見つからないこと。

2. 形態素解析を挟んだ判定

文を単語に割って品詞を判定してから見る。「正しく」が副詞なのか形容詞の活用なのかを区別できるので、照合だけでは無理な判定に手が届きます。ただし解析の誤りがそのまま指摘の誤りになり、辞書のメンテナンスコストも上がる。

3. 生成AIによる指摘

登録していない誤りも拾える。言い換えの案も出せる。代わりに、同じ入力でも出力が揺れます。

この三つは上位互換の関係ではありません。3が1を包含しているように見えて、1が持っている「毎回同じ結果になる」という性質は、3にはありません。表記統一のように「決めたことが必ず守られる」ことが目的の作業では、この性質のほうが賢さより重要です。

手段を並べてみる

現場で選択肢になるのは、たいてい次の5つです。

手段得意詰まるところ
編集者の目視意味・論理・事実・構成表記は見落とす。人数が増えると基準がぶれる。工数が線形に増える
表記ガイドライン決めたことを明文化できる書いている最中に開かれない。更新が止まる。守られたか検証できない
textlint などの開発者向けツールルールが強力。CIに組み込める編集部が使えない。CLI・Node・Gitが前提で、WordPressの投稿画面には出ない
外部の校正サービス精度が高い。辞書が充実している原稿を貼り直す手間が増える。CMSの権限や公開フローとつながらない
生成AIに投げる柔軟。言い換えまで出せる実行ごとに結果が変わる。一貫性を保証できない。本文を外部へ送る

この表で目を引くのは、技術的な性能と、編集部で回るかどうかが一致していないことです。

textlint は日本語校正ツールとして完成度が高く、ルールの表現力も十分あります。それでも編集部で採用されにくいのは、ライターにターミナルを開かせることになるからです。ツールの問題ではなく、置き場所の問題。

外部サービスも同じで、精度は申し分ないのに、「WordPressで書く→サービスに貼る→直す→WordPressに戻す」という手順が1つ増えるだけで、忙しい月には飛ばされます。

生成AIの弱点は精度ではない

AIについてはもう少し踏み込んでおきます。誤字の検出という一点では、AIはかなり優秀です。辞書に登録していない誤変換も拾う。

問題は再現性です。同じ原稿を二度投げると、拾う箇所が変わる。指摘の粒度も変わる。編集部のルールとして「これは必ず直す」と決めたものが、実行のたびに出たり出なかったりする状態では、基準として機能しません。ライターは「今日は指摘されなかったからOK」と受け取ります。

外部送信の問題もあります。公開前の原稿を外に出すことになるので、案件によっては契約上そもそも通らない。

これはAIが劣っているという話ではなく、向いている仕事が違うという話です。「決めたルールを毎回同じように適用する」のはルールベースの仕事で、「決めていないところで見落としを拾う」のがAIの仕事。役割を交換すると、どちらも機能しません。

線を引くとこうなる

判断材料が文字列の中にあるか外にあるかで、機械に渡せる指摘と人が見る指摘を分けた図

整理すると、こうなります。

  • 機械(ルールベース)に渡す:表記ゆれ、冗長表現、全角半角、句読点、文体の混在、一文の長さ、禁止語。判断材料が文字列の中で完結しているもの
  • 人が見る:構成、論理、事実、読者との距離、そもそもこの記事を出すべきか
  • AIに任意で足す:ルールに登録していない誤字の拾い漏れ。あくまで最後の一押しで、これを主軸にはしない

ルールベース側の限界も正直に書いておくと、この方式は意味を読みません。「この文は分かりにくい」は判定できないし、敬語が過剰かどうかも分からない。同音異義語の誤変換も、文脈を見ないと判断できないものは拾えません。

拾えるのは、決めたことが守られているかどうかだけ。それでも、編集者の赤入れの大半がそこだったのなら、渡す価値はあります。

残るのは、どこに置くかという問題

線引きが決まっても、まだ一つ残ります。機械に渡すとして、それをどこで動かすか

原稿を別の場所へ持っていく方式は、手順が増えるぶん続きません。編集レビューの段階に置くと、指摘が遅れて往復が減らない。公開の直前に置くと止められはしますが、その場にいるのは書いた本人ではない。

条件を並べると、置き場所に求められるものは三つあります。書いている画面の中にあること。相手によってルールの強さを変えられること。そして、重大なものは本当に止められること。

WordPressの編集フローにこれを組み込むと具体的にどうなるのかは、こちらで書きました

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